肩甲下筋（けんこうかきん、Subscapularis）は、肩関節の安定性と動きに重要な役割を果たす筋肉です。特に腱板損傷（ローテーターカフ損傷）や五十肩（肩関節周囲炎）といった肩の障害に深く関係しています。この記事では、肩甲下筋の解剖学的特徴とその機能、またこれらの肩の問題との関連性について詳しく解説します。
1. 肩甲下筋の解剖学的特徴
肩甲下筋は肩甲骨の前面（肩甲下窩）を覆う筋肉で、肩関節の内旋と安定性に寄与する重要な筋肉です。肩甲下筋は腱板の一部として、肩の動きや肩関節の安定を保つ役割を果たします。
- 起始（Origin）: 肩甲骨の肩甲下窩（Subscapular fossa）
- 停止（Insertion）: 上腕骨の小結節（Lesser tubercle of the humerus）
- 神経支配（Innervation）: 肩甲下神経（Upper and Lower Subscapular nerves）
- 機能（Function）: 肩関節の内旋（Internal rotation）、上腕骨の内転（Adduction）
肩甲下筋は、肩の内旋運動を主に担う筋肉で、肩甲骨の前面に位置することから肩甲下窩に広がっており、上腕骨の小結節に付着します。この筋肉は肩関節の安定性を高め、関節を強化する役割も持っています。
2. 肩甲下筋と腱板（ローテーターカフ）の関係
腱板（ローテーターカフ）は、肩の安定性を維持するために重要な4つの筋肉（棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋）で構成されています。これらの筋肉は肩関節を包み込むように配置されており、肩の動きをサポートし、安定性を提供しています。肩甲下筋は、この腱板の中で唯一の内旋筋であり、肩を内側に回す動作を主にサポートしています。
肩甲下筋が損傷すると、肩の内旋が制限され、肩関節の不安定性が増し、さらなる損傷のリスクが高まる可能性があります。
3. 肩甲下筋と腱板損傷の関係
腱板損傷（ローテーターカフ損傷）は、肩の腱板筋の一部または全体が炎症を起こしたり、部分的または完全に断裂したりすることがある状態です。肩甲下筋は腱板の主要な構成要素の一つであり、特に肩の内旋運動に関与しているため、肩甲下筋の損傷は肩の機能に大きな影響を及ぼします。
腱板損傷では、肩甲下筋が炎症を起こしたり、断裂したりすることがあります。これにより、肩の内旋力が低下し、日常生活の中で腕を回したり持ち上げたりする動作が困難になることがあります。
4. 肩甲下筋と五十肩（肩関節周囲炎）の関係
五十肩（肩関節周囲炎）は、肩の可動域が制限され、肩関節周囲に痛みを伴う状態です。肩甲下筋は、肩の前面で肩甲骨と上腕骨を連結しているため、五十肩の影響を受けやすい筋肉の一つです。肩甲下筋が硬直または拘縮すると、肩の内旋動作が制限され、痛みが増すことがあります。
五十肩の治療過程では、肩甲下筋の柔軟性を回復し、筋力を強化することが重要です。肩甲下筋を含む腱板筋群のリハビリテーションが、肩の可動域を改善し、痛みを軽減するのに役立ちます。
5. 肩甲下筋のリハビリと治療
肩甲下筋の損傷や機能不全に対するリハビリテーションと治療には、以下のアプローチが含まれます：
- ストレッチング: 肩甲下筋の柔軟性を改善するためのストレッチが推奨されます。内旋ストレッチや肩甲下筋専用のストレッチングを行います。
- 筋力強化エクササイズ: 内旋運動やレジスタンスバンドを使用したエクササイズで、肩甲下筋を強化し、肩の安定性を向上させます。
- 物理療法: 温熱療法、超音波療法、電気刺激などの物理療法を使用して、筋肉のリラクゼーションと炎症の軽減を図ります。
- 医療的介入: 症状が重度の場合、ステロイド注射や関節鏡視下手術などの外科的介入が検討されることもあります。
まとめ
肩甲下筋は、肩の内旋と肩関節の安定性に重要な筋肉であり、腱板損傷や五十肩といった肩の問題に密接に関係しています。肩の痛みや動きの制限を感じた場合は、早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。肩甲下筋の機能を回復し、肩の健康を維持するためには、正しいリハビリテーションとケアが不可欠です。
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